2015年5月28日木曜日

チェルシーの育成について考えてみた。 Vol.1

 多くの意見が聞かれるチェルシーの育成問題について、一度自分なりにまとめようと思う。そこで、まずはチェルシーが若手育成を行う上で前提となる環境面について考えた。
 はじめに大きな枠組みで、つまりプレミアリーグ全体を見る必要がある。プレミアリーグでは、下位クラブであっても相当の資金力を持っている。例えば、今シーズンの冬の市場開幕時点で最下位に沈んでいたレスターは、チェルシーやユベントスとマネーゲームを繰り広げた末に1200万ユーロ+オプションでFWアンドレイ・クラマリッチを獲得した。10シーズンぶりにプレミアに昇格したクラブでさえも、ビッグクラブ相手にマネーゲームを繰り広げ、強豪相手に勝利を収める資金力が存在するのである。
 つまり、プレミアでは勝つためにほぼ全クラブが不自由なく補強を行える、ということだ。プレミアリーグには莫大な放映権収入があり、最下位のクラブであっても相当額の金額が分配されるなど、潤沢な収入源が確保されている。そのため、スカウト網やユースを活かし若手を安く仕入れ育てて高く売るというような方法を、プレミアリーグのクラブは採用する必要がない。ビッグクラブだけでなく下位クラブまでが、選手の成長を待たず、即戦力を必要なタイミングで獲得できるわけだ。
 さらに、プレミアリーグでは結果を出せなくては即座に監督のクビが飛ぶ。先述したバブリーな放映権料に各クラブは是が非でもしがみつきたいからだ。降格なんてもってのほか、少しでも上の順位でより高額の収入を得るために負けは許されない。加えて、CL出場を果たせばさらに高額の収入が得られるため、この傾向はビッグクラブにではより顕著となる。そのため、監督は目の前の試合に勝つことを優先せざるをえず、未来を見据え若手を登用する余裕などない。自らの立場を守るためには、潜在能力ではなくその時点で最も実力がある選手11人を毎試合選び、脆弱なポジションがあるならその資金力で即戦力を買う必要があるのだ。要するに、勝つために求められるのはロメウ・ルカクではなくジエゴ・コスタであり、ヨン・グイデッティではなくウィルフレッド・ボニーだったということだ。逆に言えば、ビッグクラブであろうとするのならばライアン・メイソンで満足するのではなくモルガン・シュナイデルランを獲得すべきであったはずである。
 また、監督が変わってしまえば、当然トップチームのコンセプトやスタイルも変わるということだ。頻繁にチームのスタイルが変わり得る状況下では、若手の育成をすることはさらに困難となる。有望株の抜擢はあくまで将来を見越したものであり、短くない期間の我慢を強いられるだろう。しかしながら、目先の勝利を優先したチーム作りをしたにも関わらず、要求を満たす結果に至らずに解任されることがままあるのが現状だ。この上でさらに若手の育成など、求める方が酷というものではないだろうか。若手の育成は、結果が出ずとも支えてもらえる盤石な体制が不可欠であり、必然的に短期政権では不可能なのである。
 結果が出なかった場合には、若手選手自身も現時点での実力不足を槍玉に挙げられ批判に晒されるだろう。そのような状況下で、ファンは未来を見越して我慢ができるだろうか。「ワールドクラスを買え」、「金があるなら使え」、と言わずにいれるだろうか。仮にファンは我慢できたとしよう、フロントは我慢できないはずだ。現状、結果を第一とせず若手の育成にも重きを置くことが可能な人物は、アーセン・ヴェンゲルただ一人である。
 プレミアでは、有望な若手よりも即戦力を優先して起用し、力不足と判断するやいなや新戦力を獲得することは避けられないことなのだ。ましてやビッグクラブであればよりその傾向が強くなる。そんなプレミアのビッグクラブで若い選手が生き残るには、メイソンやエリアキム・マンガラ、ラヒーム・スターリングらのように監督が我慢を重ね使い続けるか、デ・ヘアやエデン・アザール、ティボー・クルトワといった既に突出した実力を持つ選手であるか、アーセナルの選手であるか、このいずれかでしかないのだ。

 次に、チェルシーでの話に移ろう。このように若手の育成が難しいプレミアの中で、チェルシーはそれが特に顕著なクラブである。常勝を宿命付けられたクラブであり、そんな今のチェルシーのトップチームが求める選手というのは、「タイトル獲得に貢献できる」選手だ。加えて、今の監督はジョゼ・モウリーニョ。毎試合勝つための11人を、時には負けないことを最優先した11人を選ぶため、小規模なスカッドを好み、いわゆる少数精鋭でシーズンを戦う。さらに、クラブも潤沢な資金と卓越したスカウト網、交渉力を活かしワールドクラスの選手を常に供給する。
 この中で若手が生き残るには、少数精鋭のスカッドの中で存在感を発揮できる程の実力を既に持つ選手でなくてはならない。現在ではなく未来を買われた選手の居場所を作ることはできないのだ。潜在能力は認められつつもタイトル獲得には力不足と判断された選手たちは、他クラブへローンとなるか放出されるしかないのである。ロメウ・ルカクは「フェルナンド・トーレスとデンバ・バがいるからもう1年ローンで経験を積ませて欲しいと言った結果、戻ってきたらジエゴ・コスタとディディエ・ドログバになっていた。」と言ったが、この発言はチェルシーというクラブを如実に表している。 
 さらに、モウリーニョは「チームのために働ける」選手を重用する。モウリーニョは、チェルシーのために働けないのならアザールであっても放出する、と明言しているほどだ。チームこそが最優先されるものであり、いくら実力や潜在能力があったとしてもチームよりも自分を優先する選手に、モウリーニョは居場所を与えることはない。ポジションは保障されるものではなく実力で勝ち取るものであり、そこで生まれる競争がチーム全体のレベルアップにもつながる。そのため、ルカクやデ・ブライネのように若手が出場機会を求めるのは理解できるが、チームに彼らの居場所が優先的に作られることはないのだ。それに不満を持ち、競争を避け自分を優先した選手は、チームを去るしかない。
 モウリーニョは今のスカッドを若いチームとよく言うが、これはいわゆる若手有望株を指すものではない。アザール、オスカル、クルトワ、クルト・ズマといった若い選手たちは戦力たりうると認められ、ハイレベルな競争に挑み、結果を出してきた選手だ。その証拠に、彼らが今シーズンの2冠に貢献しなかった、と言う人はいないだろう。彼らは皆、チェルシーのタイトル獲得に貢献できる実力を持っている選手たちなのだ。
 また、モウリーニョは自身のスカッド編成について、"I cannot have a squad of 10 men and 10 kids. I must have a squad like we have now of 16 or 17 seniors and three or four kids."言っている。今シーズンで言えば、kids に該当する選手はネイザン・アケ、ルベン・ロフタス=チーク、アンドレアス・クリステンセン、イザイア・ブラウンのことだ。後半戦から3rd GKを務めるジャマル・ブラックマンやルイス・ベイカー、ドミニク・ソランキも限定的だが含まれていいだろう。
 だが、リーグ優勝を決めたクリスタル・パレス戦までの全コンペティションを通して、この7人の出場試合数は9試合(アケ4、RLC2、クリステンセン2、ソランキ1)、時間にして428分に限られてしまっている。つまり、これらの選手(= kids )はトップチームに帯同はしていても、戦力としては考えにくいというのが実際のところなのだ。彼らよりも優れた選手(= seniors )がいる以上、彼らが起用されるチャンスは僅かなのものになってしまうのである。 kids のトップチーム帯同は、ローンに出すことで得られるものよりも、seniors と共に過ごすことで得られるものを優先した結果なのだ。

 プレミアリーグにおいて、そのビッグクラブであるチェルシーにおいて、若手育成はこれほど難しいものなのだ。若手を育てるということにおいて、若手をトップチームのスカッドに置くことと起用することは全く異なる意味合いを持つ。成長のためには出場機会が必要であり、トップリーグであればなお良い。だが、プレミアリーグではその特性上、若手育成の優先度はどうしても落ちてしまう。さらに今のチェルシーでは出場機会を保障することは到底不可能と言わざるを得ない。試合に出場したいのなら、競争に挑み結果を出し、信頼を勝ち取るしかないのである。だからこそ、将来性はあれど実力の劣る若手をスカッドに置けというならまだしも、もっと使え試合に出せ、などというのは全くの見当違いであり本末転倒になりかねないのだ。

 長々とかかってしまったが、まずはここの部分を整理しなければ育成の話はできないと感じたためだ。Vol.2では、チェルシーの育成の現状や今後について考える。

0 件のコメント:

コメントを投稿